ぎゅうた損益通算をしても赤字が残っちゃったんだけど…この赤字って、もう捨てるしかないの?せっかくの損なのにもったいなくて。



捨てなくて大丈夫です。引ききれなかった赤字は「純損失」として、翌年以降3年間“持ち越して”使えます。これが繰越控除。前回の損益通算の、まさに続きのお話です。
事業や副業で赤字が出た年、損益通算をしても黒字で吸収しきれない損失が残ることがあります。それを翌年以降に活かせるのが純損失の繰越控除です。
ただ「青色じゃないとダメ?」「株の損も繰り越せる?」と、要件まわりで手が止まりがち。
この記事では1級FP技能士が、令和7・8年分(2026年提出)時点のルールにもとづいて、繰越控除を前回と同じ「総合課税の世界」と「投資(申告分離)の世界」の2つに分けて、初心者向けにやさしく解説します。
純損失の繰越控除は、損益通算でも引ききれなかった赤字を翌年以降3年間繰り越し、黒字と相殺できる制度です。使えるのは原則「青色申告者」だけ。損失の年から連続して確定申告するのが条件です。
純損失の繰越控除とは?
損益通算で引ききれなかった赤字のこと
純損失とは、損益通算をしても控除しきれずに残った赤字のことです。
たとえば
不動産所得が150万円
事業所得が▲250万円なら
損益通算後は「150万円−250万円=▲100万円」
この残った100万円の赤字が純損失です。
この赤字は、その年で消えてしまうわけではありません。
一定の要件を満たせば、翌年以降3年間にわたって、各年の黒字(所得)から差し引けるのが繰越控除です。所得が下がるぶん、翌年以降の所得税・住民税を軽くできます。


純損失とは損益通算後に残った赤字のこと。これを翌年以降3年間の黒字から差し引けるのが繰越控除です。赤字の年は税金ゼロ、翌年以降も黒字を相殺できるので税負担をならせます。



なるほど。でも「一定の要件」ってのが引っかかるね。誰でも繰り越せるわけじゃない、ってことだよね?
鋭いです。そこが最大のポイント。まず「損益通算とは何か」があやふやな方は、前回の記事で土台を固めておくとスムーズです。


【世界①】総合課税の純損失は
青色申告なら3年繰り越せる
事業所得や不動産所得など、総合課税の世界で出た純損失。これを翌年以降に繰り越せるかどうかは、青色申告か白色申告かで大きく変わります。
要件は「期限内の青色申告」+「連続して確定申告」
純損失の繰越控除は、原則として青色申告者だけが使えます。要件はシンプルで、次の2つです。
- 純損失が生じた年に、期限内に青色申告書を提出していること
- その後も連続して確定申告書を提出していること(黒字が出なかった年も申告を続ける)
ポイントは「連続申告」。途中で申告を抜かすと繰越が途切れます。赤字を持ち越したい年は、税金が出なくても毎年きちんと申告しておくことが大切です。
白色申告は原則できない(例外は2つだけ)
白色申告では、事業の赤字(純損失)を繰り越すことは原則できません。例外として繰り越せるのは、変動所得の損失(漁業・養殖など変動の大きい所得の赤字)と、被災事業用資産の損失(災害で事業用資産が受けた損失)の2つだけです。
つまり、ふつうの事業赤字を翌年に活かしたいなら、青色申告が事実上の前提。これが「赤字が出るかも」という人ほど青色申告をすすめられる大きな理由です。
| 年 | その年の黒字 | 繰越控除の計算 | その年の所得 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | ― | 純損失 ▲100万円が発生 | 0円 |
| 2年目 | 10万円 | 100万円−10万円=残り90万円 | 0円 |
| 3年目 | 40万円 | 90万円−40万円=残り50万円 | 0円 |
| 4年目 | 30万円 | 50万円−30万円=残り20万円 | 0円 |
3年で使い切れなかった残り20万円は切り捨てになります。


純損失は古い年の損失から順に、翌年以降3年間の黒字を消していきます。各年は繰越控除で所得ゼロに。3年で使い切れなかった分は切り捨てになるので、黒字化のタイミングが鍵です。
| 項目 | 青色申告 | 白色申告 |
|---|---|---|
| 事業などの純損失 | 3年繰り越せる | 原則できない |
| 繰り越せる損失 | 純損失の全額 | 変動所得・被災事業用資産の損失のみ |
| 共通の要件 | 連続して確定申告すること | |
青色申告が事実上の前提です。
繰越控除は「使うか・使わないか」を選べる規定ではなく、要件を満たせば必ず適用される強制的な制度です。また控除する所得の順序も決まっており、総所得→山林所得→退職所得の順で差し引きます。実務では「赤字が出る前年までに青色申告承認申請を出しておく」ことが何より重要です。
そもそも事業所得とは何か、青色申告のメリットも含めてこちらで解説しています。


【世界②】株の損失も3年繰り越せる
(申告分離は別枠)



じゃあ株で出た損も、青色申告すれば事業の黒字と相殺しながら繰り越せるんですか?



そこは別世界なんです。株の損は「投資の世界(申告分離)」の中だけで繰り越せます。事業の黒字とは混ぜられません。
上場株式等を売って出た譲渡損失は、その年に申告分離課税を選んだ配当所得・利子所得と損益通算できます。それでも引ききれなかった損失は、翌年以降3年間繰り越して、将来の株の利益や配当と相殺できます。
ただし世界①と同じく、繰り越すには取引のない年も含めて連続した確定申告が必要です。そしてここでも、株の損失は給与所得や事業所得など総合課税の所得とは通算・繰越できません。
| 口座・区分 | 損失の繰越控除 |
|---|---|
| 特定口座・一般口座の株式譲渡損失 | 申告分離の中で3年繰越できる(要・連続申告) |
| 株の損失×給与・事業所得 | 通算も繰越もできない |
| NISA口座の損失 | 「ないもの」とされ繰越できない |
NISAは繰越の対象外です。


株の譲渡損失は申告分離の配当・利子と通算し、残りを3年繰越できます。ただし給与・事業など総合課税とは通算不可。NISAの損失は「ないもの」とされ、繰越控除もできません。
「総合課税」と「申告分離課税」の違いそのものは、こちらで詳しく解説しています。投資の繰越控除を理解する土台になる記事です。


【発展】繰戻し還付と雑損失
(FP1級の視点)
初心者の方は、ここまでの「総合課税は青色で3年」「投資は申告分離で別枠3年」「NISAは対象外」の3点が分かれば十分です。この章はFP試験対策や、もう一歩踏み込みたい方向けの発展内容です。
純損失には、未来へ持ち越す「繰越控除」とは逆向きの選択肢もあります。それが純損失の繰戻し還付です。その年の赤字を前年に繰り戻し、前年に納めた所得税の還付を受けられます。前年が黒字で税金を払っていた人には、現金が戻る心強い制度です。
こちらも青色申告者だけの制度で、前年も青色申告していることが要件です。なお繰戻し還付は所得税のみの制度で、住民税や個人事業税には適用されません。


赤字(純損失)は、未来に繰り越す(繰越控除)か、前年に繰り戻して還付を受ける(繰戻し還付)かを選べます。どちらも青色申告者向け。還付はすぐ現金が戻る一方、繰越は将来の黒字次第です。
災害・盗難などで使う雑損失の繰越は、純損失と違い青色・白色を問わず3年間できます。同じ年に純損失と雑損失があるときは、まず純損失から控除します。また、特定非常災害による損失は、一定の場合に繰越期間が3年→5年に延長されます。
まとめ:純損失の繰越控除4ポイント
- 純損失=損益通算で引ききれなかった赤字。翌年以降3年間、黒字と相殺できる
- 【世界①】総合課税の純損失を繰り越せるのは原則「青色申告者」。連続申告が条件
- 【世界②】株の譲渡損失は申告分離の中で別枠3年繰越。総合課税やNISAとは通算できない
- 前年が黒字なら「繰戻し還付」で前年の所得税が戻る選択肢もある(青色限定・所得税のみ)



赤字は「捨てる」ものではなく「未来に活かす」もの。そのためのカギは、赤字が出る前から青色申告を整えておくことです。損益通算とセットで押さえれば、もう怖くありません。
よくある質問(純損失の繰越控除FAQ)
- 純損失の繰越控除に青色申告は必須ですか?
-
事業の赤字などの純損失を繰り越すには、原則として青色申告が必要です。白色申告で繰り越せるのは、変動所得の損失と被災事業用資産の損失の2つに限られます。いずれも、損失の年から連続して確定申告を続けることが共通の要件です。
- 株やNISAの損失も繰り越せますか?
-
上場株式等の譲渡損失は、申告分離課税の配当・利子と通算し、残りを翌年以降3年間繰り越せます(要・連続申告)。ただし給与所得など総合課税の所得とは通算できません。NISA口座の損失は税務上「ないもの」とされ、繰越控除の対象外です。
- 繰越控除をすると国民健康保険料も安くなりますか?
-
国民健康保険料の所得割は、繰越控除後の所得をもとに計算されるため、繰越控除で所得が下がれば保険料に影響することがあります。ただし住民税の繰越額の扱いは自治体ごとに手続きが必要な場合があり、繰戻し還付を使うと所得税と住民税で繰越額がずれることもあります。正確な金額はお住まいの自治体や税理士にご確認ください。
【出典】
・国税庁「No.2070 青色申告制度」
・国税庁「No.2240 純損失の繰越控除」
・国税庁「A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続」
・国税庁「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
・所得税法第70条(純損失の繰越控除)
・FP1級学習教材(純損失の繰越控除・繰戻し還付・株式等の譲渡損失の繰越控除)
※本記事は令和7・8年分(2026年提出)時点の情報に基づきます。個別の判断は最新の国税庁情報や税務署・税理士にご確認ください。









